第221話  琴の調べ

  源氏の君は琴の絃が切れてしまうのを恐れて、調子 を下げて短い曲を弾きます。そして、姫君に渡します。姫君はまだお小さいので、お手つきが本当に可愛らしいのです。源氏は笛を吹き鳴らしながら教えます。 姫君はたいへん聰明で、むずかしい調子なども一度で覚えてしまわれます。

 1.琴の調べ~紅葉賀~【日本古典文学大系】

 「筝(さう)の琴(こと)は、中の細緒(ほそを)の堪(た)へがたきこそ、ことろせ けれ」
  とて、平調(ひやうでう)におし下(くだ)して、調(しら)べ給ふ。かきあはせばかり弾(ひ) きて、さしやり給へれば、え怨(ゑ)じもはてず、いと美(うつく)しう弾(ひ)き給ふ。
  ちひさき御程(ほど)に、さしやりて、ゆし給ふ御手(て)つき、いと美(うつく)しければ「ら うたし」と思(おぼ)して、笛(ふえ)ふき鳴(な)らしつゝ、教(をし)へ給ふ。
  いと、さとくて、かたき調子(てうし)どもを、たゞ一(ひと)わたりに、習(なら)ひ取(と) り給ふ。
 大方(おほかた)、らうらうしう、をかしき御心ばへを、「思ひし事(こと)、かなふ」と思(お ぼ)す。
  「保曾呂倶世利(ほそろぐせり)」といふ物は、名は憎(にく)けれど、おもしろう吹(ふ)きす まし給へるに、かきあはせ、まだ若(わか)けれど、拍子(はうし)たがはず、上手(ず)めきた り。

  漢語起源のことば

 宮廷では中国からもたらされた琴や琵琶が演奏され ていた。和琴(わごん)という和風に改良された琴もあった。貴族たちは競ってその演奏を習い、またそれを聞くのを楽しみにしていた。
 保曾呂倶世利(ほそろぐせり)は「名は憎けれど」 と言われている通り、耳なれないことばであるが、筝曲の名である。

 ○ 漢語(漢音・呉音):筝(さう)、平調(ひやうてう)、怨(ゑ) ず、ゆす、拍子(はうし)、
    上手(ず)、
 ○ 
漢語起源のことば:琴(こと)、中、堪(なか)へる、ところせ し、はつ、御、手(て)、
    思(おぼ)す、鳴(な)らす、かた い、取(と)る、思ふ、物(もの)、名(な)、
    若(わか)い、
 ○
訓(やまとことば):ほそを(細緒)、ところ、くだ(下)す、しら (調)べ、給ふ、
、   ひ(弾)く、ちひさい、いとうつく(美)し、らう たし、程(ほど)、ふえ(笛)、
    をし(教)へる、さとし、ひと(一)つ、なら(習)ふ、お ほかた(大方)、らうらうし、    をかし、心、事、かなふ、にく(憎)い、ふ(吹)く、た がふ、

 ○ 琴(こと)
 「琴」の古代中国語音は琴
[giəm] である。琴は中国から伝わった楽器であるから、日 本語の琴(こと)の語源も中国語起源であろう。日本で改良されたものを和琴(わごん)という。「こと」は琴[giəm] の韻尾が転移した倭音であり、和琴(わご ん)は音である。

 中国語の韻尾[-m] が倭音でタ行に転移した例としては音(オン・お と)などがある。中国語韻尾の[-m] に対応する入声音は[-p] であるが、日本漢字音では古代中国語の韻尾[-p]はしばしばタ行であらわれる。例:立[liəp](リツ)、接[tziap](セツ)、雜[dzap](ザツ)などである。[-m]・[-p] は両唇音であり、[-n]・[-t] は前口蓋音(歯茎の裏側で調音される)であり、調 音の位置が近い。調音の位置が近い音は転移しやすい。

 ○ 堪(た)へる
 「堪」の古代中国語音は堪
[zjiəm] である。照[tj-]、神[dj-]、禅[zj ]などの漢字音は端[t-]、定[d-] などの音が口蓋化したものが多いから、堪[zjiəm] も口蓋化する以前には堪[tiəm] あるいは堪[dəm] に近い音があったものと思われる。堪(たへる)は 隋唐の時代に中国語音が口蓋化する以前の古い発音の痕跡を留めているものと考えられる。絶(たえる)も絶[dziuat] の倭音であろう。(参照:第215話

 ○ ところせし
 「せし」は「狭」である。「狭」の古代中国語音は 狭
[heap] である。また、「狭」の現代北京音は狭(xia) であり、仮名で表記すれば狭(シア)である。同じ 声符をもつ「陝」は陝西省(センセイショウ)などサ行で発音されている。語頭の[h-] あるいは[k-] は介音(i)が伴う場合に口蓋化されてサ行に転移する場合があ る。日本語の狭(せし・せまし)は中国語の「狭」に依拠した倭音である。

 ○ はつ
 「はつ」は漢字でひょうきすれば「果つ」であろ う。「果」の古代中国語音は果
[kuai] である。果[kuai] [khuai] あるいは[huai] にも近く、倭音ではハ行であらわれるものもも多い。
(参照:第210話・經る、第218話

 ○ 鳴(な)らす
 「鳴」の古代中国語音は鳴
[mieng] である。日本語の鳴(なく・なる)は中国語の鳴[mieng] の転移したものである。中国語音の[m-] が日本漢字音でナ行に転移した例としては名[mieng](メイ・な)、苗[miô](ビョウ・なえ)、猫[miô](ビョウ・ねこ)、眉[miei](ビ・まゆ)などをあげることができる。中国語の韻尾[-ng][-k] から変化したものが多い。

  例:衝[tjiong](ショウ・つく)、舂[siong](ショウ・つく)、丈[diang](ジョウ・たけ)、
   影
[yang](エイ・かげ)、双[sheong] 六(ソウ・すごろ く)、相[siang] 模(ソウ・さがみ)、

 ○ かたい
 「かたい」は漢字で表記すれば「堅」である。 「堅」の古代中国語音は堅
[kyen] である。堅(かたい)は漢語の「堅」の倭音であ る。「堅」は隋唐の時代以前には堅[kyet] に近い音だったものと考えられる。[-n][-t] は調音の位置が同じである、転移しやすい。中国語 音の[-n] が倭音でタ行であらわれる例としては本[puən](ホン・もと)、満[muan](マン・みる)、綿[mian](メン・わた)、面[mian](メン・おも)、[ngian](ゲン・こと)、元[ngiuən](ゲン・もと)、などをあげることができる。

 ○参照:物・もの(第207話)、御( 第208話)、名・な(第209話)、
     手・て(第213話)、思・おぼす(213話)、取・とる(第217 話)、
    若・わかい(第218話)、

 
 歴史的仮名使い

 ○ さう(筝)
 「筝」の古代中国語音は筝
[tzheng] である。歴史的仮名使いでは「そう」と表記する漢 語もある。「さう」は介音[-i-] をともなったものが多く、「そう」は介音[-i-] をともなわない音に対応しているようである。筝、 相、精、装については筝(呉音・ショウ、漢音・ソウ)、相(呉音・ソウ、漢音・ショウ)、精(呉音・ショウ、漢音・セイ)、装(呉音・ショウ、漢音・ソ ウ)と漢和字典にはあり、日本漢字音でも拗音になるものが多い。

 歴史的な名使いで「さう」と表記されているものの 中国語原音は陽韻[-ang]、耕韻[-eng]、それに幽韻[-u] のものであり、「そう」は東韻[-ong]、蒸韻[-əng]、候韻[-o] に対応している。「相」、「装」などは介音[-i-] の発達する前の音、相[sang]、装[tzhang] を反映しているのではなかろうか。

  [さう]:相[siang]、装[tzhiang]束(さうぞき)、筝[tzheng/tzhieng]、精[dzieng]進(さうじ)、
      早
[tzu]、草[tsu]
 [そう]:総[tzong]、僧[tzəng]、奏[tzo]

  「精進」は精進(しやうじん)、「装束」は装束 (しやうぞき・しやうぞく)と書かれることもある。介音(i)の発達を反映したものであろう。

 歴史的仮名使いには「しよう」という表記もある。 蒸韻[-əng] のものも陽韻[-ang] のものもみられるが、いづれも口蓋化音である。中 国語原音の口蓋化を反映しているものと思われる。現代の日本漢字音にも呉音と漢音があって、同じ漢字にふたつの読み方があるように、源氏物語の時代の漢字 にも直音と拗音の二つの読み方があったものと思われる。「さう」と「そう」は区別されているが、「しよう」は「さう」の異音であり、中国における介音[-i-] の発達を反映している。

  [しよう]:承[zjiəng] 香殿、丞[zjiəng]、昇[zjiəng] 殿、勝[sjiəng] 負、将[tziang] 軍、

 ○ ちう(中)
 「中」は漢字で書いてあるが、ひらがなで表記する と中(ちう)である。歴史的仮名使いで「ちう」と表記される漢字には中
[diuəm]、柱[dio]、注[tjio]、誅[tjiu] などがある。歴史的仮名使いには「ちゆう」という表記をする漢 字音はない。

○ ひやう(平)
 「平」の古代中国語音は平
[bieng] である。日本漢字音は呉音・平(ビヨウ)、漢音・ 平(ヘイ)、慣音・平(ヒョウ)と漢和字典にはある。
歴史的仮名使いでは「ひやう」と書く。兵
[pyang] 庫、屏[byeng] 風、拍[peak] 子、なども「ひやう」である。拍子は拍子(ハク シ)の音便化したもので、拍子(はうし)とも書く。

 ○ てう(調)
 「調」の古代中国語音は調
[dyô] であり、日本漢字音は呉音・調(ジョウ)、漢音・ 調(チョウ)である。歴史的仮名使いでは調[dyô] 子、朝[tiô] 賀、潮[zjiô]、銚[dyô] 子、などは「てう」と表記する。いずれも宵韻[ô] の漢字である。
 長
[diang] 生殿、町[thyeng]、定[dyeng]、など中国語の韻尾が[-ng] の漢字尾は「ちやう」と表記する。これらは陽韻[-ang]、耕韻[-eng] の漢字である。

 ○ ゑ(怨)じもはてず
 「怨」の古代中国語音は怨
[iuan] だと考えられている。「ゑず」は怨[iuan] の韻尾[-n] の脱落したものである。古代日本語には[-n] で終わる音節はなかったので中国語の韻尾[-n] はしばしば脱落した。ひらがなの元になった漢字のなかにも韻尾に[-n]・[-m] をもつ漢字がいくつも含まれている。

  例:安(あ)、雲(う)、天(て)、仁(に)、半 (は)、満(ま)、連(れ)、

  「ゑ」と表記される漢字と「え」と表記される漢字 は区別されている。宛[iuan]、遠[hiuan]、円[hiuən]、淵[yuen]、垣[hiuan] などは「ゑん」と表記し、宴[yan]、艶[jiam]、縁[djiuan]、などは「えん」と表記する。
 古代中国語の喉音
[h-] に由来する漢字は「ゑ」と表記し、[d-] の頭音が口蓋化の影響で脱落したものは「え」と表 記しているようである。古代中国語では随の時代に口蓋化音が発達し、唐代になると、その影響で頭音の[h-] あるいは[d-] が脱落するという傾向があらわれた。

 日本漢字音は唐代の中国語音に依拠しているものが 多い。唐代には[hiu-]、[dj-] も頭音がすでに失われていて、区別がつかなかった ものと思われるが、表記上の規範として守られたのであろう。

 ○ ゆ(由)す
 「ゆ」は「由」である。「由」は左手で絃を押さえて吟を出すことをいう。「由」の古代中国語音は由
[jiu] である。「由」の日本漢字音は呉音・由(ユ)、漢 音・由(ユウ)とされている。「由」には由(ヨウ)という読みもあり、用[jiong] と通用する。「ゆす」の意味は「用いる」である。

 ○ はうし(拍子)
 「拍子≪はうし≫」は拍
[peak] の音便形で、格[keak] 子(かうし)などと同じである。発音の歴史的変化 はこのようにして起こる。『風土記』には伯耆(ははき)とされている。これも音便形の一種であろう。

 ○ 上ず(手)
 「上ず」は「上手(じやうず)」であろう。「上・ 手」の古代中国語音は上
[zjiang]、手[zjiu] である。「手」の頭音は禅[zj-] であるが、口蓋化する前の音は定[d-]に近かったものと考えられる。「上ず(手)」の 「ず(手)」は手[zjiu] が口蓋化する前の形である手[du]の痕跡を留めているのではあるまいか。
 日本語の手(て)も古代中国語音の痕跡を留めてい るものと考えられる。手(シュ・ず・て)は同源であり、手(て)→手(ず)→手(シュ)と変化してきたものであろう。(参照:第214話・「じやう」)

  谷崎潤一郎訳『源氏物語』~琴の調べ・紅葉賀 ~

  筝(そう)のことは、中の細緒の切れやすいのが面倒だから」と、調子を平調(ひょうちょう)に お下げになって、まず御自分がおしらべになります。
  搔(か)き合せばかりを弾いて、姫君の前へおやりになりますと、そう拗ねてばかりもいらっしゃ れないで、たいそうきれにお弾きになります。
  お小さいので、体を伸ばして由(ゆ)をなさるお手つきが美しいので、愛らしくお感じなされて、 笛を吹き鳴らしつつお教えになります。
  たいへん悟りが早く、むずかしい調子などをただ一度でお覚えになります。
  何ごとにつけても器用な、発明なお心ばえなので、これこそかねて望んでいた通りの人を得たのだ とお思いになります。
  保曾呂倶世利(ほそろぐせり)という曲は、変な名ですけれども、節面白く笛をもって吹き澄まし 給うと、それと合奏なさいますのが、未熟ながらも拍子(ひょうし)が間違わず、上手めいて聞こ えるのでした。

 2.琵琶の音~紅葉賀~【日本古典文学大系】

 宮廷では男性も女性も琴や琵琶を奏でる。催馬楽が 催され、囲碁なども男性に限らず、女房たちの遊びでもあった。催馬楽は古代の民謡で、平安時代には宮廷の音楽のなかに取り入れられた。

   夕立して名殘涼(すゞ)しき宵(よひ)のまぎれに、溫明殿(うんめいでん)のわたりを、たゝず み歩(あり)き給へば、この内侍、琵琶(びは)を、いと、をかしう、ひきゐたり。
  御前などにても、男方(をとこがた)の御遊(あそ)びにまじりなどして、ことに、まさる人なき 上手(ず)なれば、ものゝ恨(うら)めしう思(おぼ)えけるをりから、いとあはれに、きこゆ。
 「瓜(うり)作(つく)りに、なりやしなまし」と、聲(こゑ)は、いとをかしうて謡(うた)ふ ぞ、少(すこ)し心づきなさ。
 「鄂州(がくしう)にありけん昔(むかし)の人も、かくや、をかしかりけむ」と、耳(みゝ)  とゞまりてきゝ給ふ。
 弾(ひ)きやみて、いといたう思ひ亂(みだ)れたるけはひなり。

  漢語起源のことば

 溫明殿(うんめいでん)は平安京内裏の殿舎のひと つで、紫宸殿の東南にあった。
 「瓜(うり)作(つく)り」は催馬楽に「山城の狛 のわたりの瓜つくり、、、我を欲しといふ、いかにせむ。なりやまし、、、」とあるのによる。
 「鄂州(がくしう)」は地名で白楽天がこの地に 宿って、秋の夜、女の歌うのを聞いたことがあった、と白氏文集にある。鄂州にいたという昔の人も、女が夜に歌うのを聞いて、こんなに感興がふかかったので あろうか、としている。

 ○ 漢語(漢音・呉音):溫明殿(うんめいでん)、内侍、琵琶(びは)、鄂州(がくしう)、
 ○
漢語起源のことば:夕立、名殘、御、上手(ず)、恨(うら)めし、思 (おぼ)える、
    作(つく)る、耳(みゝ)、思、亂(みだ)れる、
 ○
 訓(やまとことば):すゞ(涼)しき、よひ(宵)、あり(歩)き、給 ふ、前(まへ)、
    をとこがた(男方、)あそ(遊)ぶ、うり(瓜)、 こゑ(聲)、うた(謡)ふ、
    すこ(少)し、心、むかし(昔)、人、ひ(弾)く、みだ(亂) れる、

 ○ 夕立
 「夕」の古代中国語音は夕
[zyak] である。日本漢字音は呉音・夕(ジャク)、漢音・ 夕(セキ)である。白川静の『字通』によると「夕は昔[syak]、夜[jyak] とも、声近く同系の語である」という。日本語の 「ゆふ」は夜[jyak] の韻尾の音便化したものとも、夕[zyak] の頭音が脱落して、韻尾の[-k] が音便化したものであるとも考えることができる。 夕(ゆふ)は宵[siô](よひ)とも音義ともに近い。
 「立」の古代中国語音は立
[liəp] である。中国語の来母[l][t] と調音の位置が同じ(歯茎の裏)であり、転移しや すい。立(リツ・たつ)、粒(リュウ・つぶ)、龍(リュウ・たつ)、滝(ロウ・たき)、隆(リュウ・たかし)、など音でラ行であらわれる音が訓ではタ行で あらわれる場合が多い。古代日本語にはラ行ではじまる音節がなかったので 中国語の来母[l]はタ行に転移した。

 ○ 名殘
 「名」の古代中国語音は名
[mieng] であり、日本漢字音は呉音・名(ミョウ)、漢音・ 名(メイ)である。[m-]・[n-] はいずれも鼻音であり、調音の方法が同じである。 また、[m-] は両唇音であり、[-n] は調音の位置が歯茎の裏(前口蓋音)であり調音の 位置が近い。調音の方法が同じであり、調音の位置が近い音は転移しやすい。(参照:第209話)、
名残「な+ごり」の「ごり」は「殘」の訓「殘(の こり)」の短縮形である。

 ○ 恨(うら)めし
 「恨」の古代中国語音は恨
[hən] である。古代中国語の喉音[h-] は介音[-i-] などの影響で唐代に入ると脱落するが、日本語の 「うらむ」「むらめし」は中国語の「恨」と同源の倭音である。
 韻尾の
[-n] は調音の位置が[-l] と同じであり、日本語ではラ行に転移した。古代日 本語では語頭にラ行音が立つことはなかったが、語中、語尾ではラ行音があった。中国語の韻尾[-n] がラ行に転移した例としては次のような漢字をあげ ることができる。

  例:怨[iuan](エン・うらむ)、恨[hən](コン・うらむ)、漢[xan](カン・から)、
   雁
[ngean](ガン・かり)、巾[kiən](キン・きれ)、玄[hyuen](ゲン・くろ)、
   昏
[xuən](コン・くれ)、換[xan](カン・かえる)、還[hoan](カン・かえる)、
   潤
[njiuən](ジュン・うるおう)、寛[khuan](カン・ひろい)、片[phian](ヘン・ひら)、
   辺
[pyen](ヘン・へり)、

 ○参照: 御(第209話)、上手(ず)( 第213話第220話)、耳・みゝ(第218話)、
      思(おぼ)える(第213話)、作(つく)る(第211話)、

 
 谷崎潤一郎訳『源氏物語』~琵琶の音・紅葉賀 ~

  夕立があがって、そのあとが涼しくなった宵(よい)の暗まぎれに、温明殿(うんめいでん)のあ たりをそぞろ歩きしていらっしゃいますと、この内侍が琵琶(びわ)をたいそう見事に弾いている のです。
  御前なども、男たちの管弦の中に交わったりして、立ち勝(まさ)る者がいないほどの上手なの  が、心に恨みを抱(いだ)きつつ奏(かな)でますので、ひとしおしんみと聞こえます。
  「瓜作りになりやしなまし」と、声はたいそう綺麗(きれい)に謡(うた)っていますのが、少し 不似会いで、気味が悪いのです。
  昔の鄂州(がくしゅう)の女とやらこういう綺麗な声であったろうかと、耳をとめてお聞きになり ます。やがて弾き止んで、ひどく思い乱れている様子です。

[源氏物語を読む]

☆第207話 ひらがなの発明

第208話 桐壺の巻を読む

第209話 帚木の巻を読む

第210話 雨夜の品定め~帚木~

第211話 馬の頭(かみ)の女性観~帚木~

第212話 賢い女について~帚木~

第213話 空蝉の巻を読む

第214話 夕顔の巻を読む

第215話 町屋の朝~夕顔~

第216話 夕顔の死~夕顔~

第217話 若紫の巻を読む

第218話 末摘む花の巻を読む

第219話 紅葉賀の巻を読む

第220話 青海波の舞の夕べ~紅葉賀~

☆第221話 琴の調べ~紅葉賀~

第222話 花の宴の巻を読む

第223話 葵の巻を読む

第224話 賢木の巻を読む

第225話 花散里の巻を読む

もくじ