第98話 はじめにことばありき考 第98話「はじめにことばありき考」から第106話「日本語と近いことば・遠いことば」までは中部大学発行の雑誌『アリーナ』(2009年12月10日)第7号に「はじめにことばありき考~日本語比較
言語学の企て~」として載せたものに加筆したものである。 はじめに 「はじめにことばありき」とは新約聖書ヨハネによる福音書の冒頭のことばである。この地球上にはじめにあったことばとは、どのようなことばだったのだろう か。キリストはヘブライ語あるいはアラム語を話していたのではないかと考えられている。人類最初のことばとはどのようなことばだったのだろうか。そして、 日本語は人類最初のことばとどのような関係にあるのだろうか。
19世紀に歴史言語学が発達した結果、世界にはヘブライ語やアラム語より古いことばがることが明らかになってきた。ナンスクリットである。ヨーロッパの
諸言語については、言語の系統が解明され、これらの諸言語の関係をあたかもひとつの幹から枝分かれした樹木に見立て、これを系統樹と名づけた。 イ
ンド・ヨーロッパ祖語 ①ゲルマン語
西ゲルマン語
英語 ヘブライ語もアラム語はインド・ヨーロッパ系の言語であり、セム語系のことばであることが明らかにされている。中国語、ドラヴィタ語(インド南部)、オース
トロネシア語(マレー語やインドネシア語)についても、その系統が明らかにされている。しかし、日本語については、アルタイ語系論、南島語(オーストロネ
シア)系論、タミル語起源説などがあり、いまだにその類縁関係は明らかにされていない。 もし、仮に万葉集がロゼッタ・ストーンのように朝鮮語や、中国語、アイヌ語、インドネシア語、タミル語などに翻訳されていたら、それらを比較することによっ
て日本語との類縁関係を検証することができるのではないか。ところが、万葉集については朝鮮語の完訳はあるものの一部でも翻訳のある言語は中国、英語など
に限られている。ところが、聖書はほとんど世界中のことばに翻訳されている。東京銀座四丁目の教文舘のビルにある日本聖書協会に行けば誰でも聖書を世界中
の言語で閲覧することができる。そこで、聖書の「はじめにことばありき」の部分と主の祈り(マタイによる福音書第6章)をとりあげ、日本語と類縁関係にあ
ると考えられる言語と比較してみることにする。聖書は壮大なロゼッタ・ストーンでもある。 ここでは、日本語と類縁関係がるとされるとされる朝鮮語、モンゴル語、アイヌ語、チャモロ語(グアム・サイパンのことば)、タミル語、ビルマ語のほかに中国
語、英語についても同じ聖句の翻訳文をたよりに比較することによって、日本語との類縁関係を探ってみることにする。ひとつの言語をそれなりに習得するには
3年はかかる。仮にひとりの人間が8カ国語を習得しようとすると20年以上かかることになる。しかし、辞書と文法書がそなわっている言語を解読することは
不可能ではないはずである。辞書も文法書もないヒエログリフを解読した人シャンポリオンのような人もいるのである。
聖書の解読にあったては、それぞれの言語の専門家の協力が得られるものについては、原稿の段階で校閲していただいた。しかし、解釈に誤りがあるとそれば、
それはすべて筆者の責任である。 |
||
★ 第106話 日本語と近いことば・近いことば |