第259話 古代日本語の特徴

 

  万葉集の日本語も「漢意(からごころ)」をぬぐいされば「純粋なやまとことば」にたどり着くというようなものではなく、すでに萬葉集の「やまとことば(訓)」のなかにはすでに中国語から受け入れた語彙が多く含まれていることがわかる

 「やまとこと ば」と考えられていることばのなかに、すでに中国語からの借用語(あるいは同源語)があるということである。弥生時代の初期以降、古墳時代、飛鳥時代を通 じて日本語に取り入れられたことばがあるのにもかかわらず、それをあらわす名称がないのも不都合だから、弥生時代以降の借用語という意味で便宜上「倭音」 と呼ぶことにする。

 すると、つぎのような日本語の姿がみえてくる。

祖   語

 借用語 1

 借用語 2

 借用語 3

縄 文 語          

 倭音(弥生音)

 呉  音

 漢  音

 

 倭音(弥生音)の時代は約1000年にわたる。古代日本では、中国・朝鮮からの渡来の波が少なくとも4つあった。

 第1は紀元前200年頃から朝鮮を媒介とした弥生文化の流入があり、稲作や製鉄の技術がもららされる。

 第2は5世紀の前後、応神、仁徳朝の時期で、大陸文化の影響を受けて倭王権が確立していく。そして、王墓クラスの大型古墳が作られるようになる。

 第3は5世紀後半から6世紀のはじめ、雄略、欽明朝の時代で、朝鮮では新羅、高句麗の勢力がしだいに強くなり、百済は圧迫される。この時期に仏教をはじめ、技術や知識をもつ人が多数入ってくる。今来(いまき)と呼ばれる新しいタイプの渡来者である。

 第4が7世紀後半、大化の改新から、とくに天智朝の前後である。律令国家が整備され、対外的には唐・新羅の軍が百済を滅ぼす。朝鮮の内乱に干渉しようとした大和朝廷の軍が白村江の戦いで大敗する。この前後にまた、大量の渡来がある。

 

 万葉集の時代 はそうした積み重ねのうえに展開される。何世代も前に渡来した人々はもはや渡来人ではなく、日本文化の担い手となっている。「やまとことば」も漢字の伝来 なくしては記録されることもなく消え去っていってしまったに違いない。万葉集の時代の日本語には、唐代の中国語にはみられないいくつかの特徴があった。

 
 音節は開音節(母音で終わる音節)であった。

濁音が語頭にくることはなかった。

ラ行音が語頭にくることはなかった。

中国語にある喉音[h-][x-] は日本語にはなかった。

○中国語では頭子音と主母音の間に介音[-i-][-u-] などが入って拗音を形成するが古代日
 本語には拗音はなかった。

 
 弥生時代から古墳時代、飛鳥時代を通じて受け入れた中国語の語彙は日本語の音韻構造に適合するように転移した。音韻の転移には法則があり、調音の位置が同じものは転移しやすい。また、調音の方法が同じものは転移しやすい。


 





もくじ

第260話 人体名称の日本語

第261話 弥生時代の借用語

第262話 日本国憲法を解剖する

第263話 日本語の親戚を求めて

第264話 日本語の起源