第43話 中国の国語教科書 現在中国では小学校の1学年からローマ字による国語教育を行っている。小学校の教科書には、表紙からローマ字が併用されていて『語文』(yŭ wén)と現代北京語の読み方がローマ字で示されている。6年制義務教育小学試用課本をみてみると次のような例がある。 馬mă、
牛niú、
羊yáng、
毛máo、
頭 tóu、
人rén、
耳ě r 、
口kŏu、
目mù、
牙yá、 北
京音は日本漢字音とはかなり違う。しかし、違いは日本漢字音との間にだけあるのでではなく、中国国内でも発音はかなり違う。漢字の国中国では漢字で書けば
全国でことばが通じるが、発音は地域によりかなり違うので会話は通じないことが多い。テレビの番組も北京語を理解できない人のために、漢字を字幕で示して
いる。そこで、教育によって北京語音を普及させ、各地の方言のほかに北京語音を全国共通語として普及させようというわけである。例えば広東語では次のよう
になる。 馬máh(mă)、
牛ngàuh(niú)、
羊yèuhng(yang)、
毛mòuh(máo)、
頭tàuh (tóu)、
人yàhn(rén)、
耳yíh (ěr)、 カラー印刷で絵入りの教科書を開いてみるとつぎのようになっている。 kàn yìn jié
dú
zì
yīn yī
èr
sān sì
wŭ liù qī
bā jiŭ shí shàng zhōng xià dà xiăo rì
yuè shuǐ
huŏ shān shí tián tŭ jǐng dāo gōng chē zhōu qì yún
yŭ diàn 表音文字をも たない中国では、古来漢字の音を示すために反切という方法が試みられてきた。漢字に漢字でカナをふるのである。例えば、「月」は頭音である声母と母音を含 む韻尾である韻母にわけて、月(玉掘切)とする。これによって、「月」の頭音は「玉」と同じであり、母音を含む韻尾は「掘」と同じであることを示す。 馬(姥雅切)、牛(宜求切)、羊(移強切)、鳥(泥了切)、人(人寅切)、耳(而矣切)、 これは漢詩の韻を調べたりするのには便利だが煩雑である。月は北京語では月(yuè)であり広東語では月(yuht)であるが、反切の「玉掘」北京語では玉掘(yù- jué)、であるが、広東語では玉掘(yuhk-gwaht)であるため、「月」を北京の人は月(yuè)と理解し、広東の人は月(yuht)と理解してしまう可能性がある。つまり、漢字で漢字にカナをふるのは循環論になってしまうのである。 経国家教委中小学教材審定委員会審査試用の九年義務教育六年制小学教科書の語文(Yŭ Wén) 第三冊(人民教育出版社小学語文室 編著)のなかの「狼と子羊の話」の一部をみると次のようになる。(原文は簡体字) láng
hé xiăo yáng láng
lái dào xiăo
xī biān kàn
jiàn xiăo yáng
zài nà ér hē shuǐ láng
xiăng chī
xiăo yáng jiù
gù yì zhăo
chá ér shuō nǐ bă wŏ hē de
shuǐ nòng zāng le nǐ
ān de shén me xīn xiăo
yáng chī le yì
jīng wēn
hé de shuō wŏ
zěn me huì bă nín hē de shuǐ nòng zāng
ne nín
zhàn zài shàng
yóu shuǐ shì cóng nín
nà ér liú dào wŏ
zhè ér lái de bú
shì cóng wŏ zhè
ér liú dào nín
nà ér qù de 中 国では革命後漢字を簡略化した。そして、さらにその漢字の読み方を、表音文字であるローマ字によって小学校の段階から教えて、北京語の発音を共通語として いこうという試みが続けられている。現在では、日本人が中国語の発音を学習するのにも、アルファベットが用いられている。現代の北京語音は日本漢字音とは かなり違うから、北京語音を習うには表音文字であるアルファベットによったほうが間違いが少ない。 日 本漢字音は主として唐代の漢字音に依拠している。千数百年の間に、中国語の発音も変わり、日本語の発音も変わった。どちらかといえば、日本漢字音のほうが 中国語の古いかたちを留めているといえる。北京語は元代に韻尾の子音を失ったので、日本漢字音は北京語よりも広東語に近い。 |
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