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第170話
くがね(黄金)の語源
日本語の「かね」の語源は中国語の「金」である。
「かね」は金属一般をさし、金(キン)は古代日本語では奈良時代は「くがね」であり、平安時代には「こがね」になる。
古代中国語の「莖」は莖[heng]である。語頭の喉音[h-]は日本語ではカ行であらわれる。韻尾の[-ng]は隋唐以前の上古語では[-k]に近かったと考えられている。日本語の「くき」の
語源は中国語の「莖」である。 同じ声符の漢字でも広(コウ):拡(カク)、交
(コウ):較(カク)などのように二通りの読み方のある漢字がみられる。拡(カク)、較(カク)のほうが広(コウ)、交(コウ)より古い中国語音を留めて
いる。日本語の訓でも中国語の韻尾[-k]の痕跡を留めているものがある。 嗅
(キュウ・かぐ)、影(エイ・ケイ・かげ)、塚(チョウ・つか)、桶(トウ・ヨウ・おけ)、
「鵠」は現代日本語では鵠(くぐい)である。地名
では鵠沼(くげぬま)とも読む。「鵠」の古代中国語音は鵠[huk]である。中国語の「鵠」の頭音は喉音[h-]で日本語ではカ行であわられる。日本語の「くぐ
ひ」は「くぐ+ひ」であろう。「ひ」の意味は不明であるが、鳥の名前に「ひ」のつくものがみられる。鶯(うぐひす)、鳶・鵄(とび)、水鶏(くひな)、鵯
(ひよどり)、鶸(ひは)、雲雀(ひばり)などである。
「串」の古代中国語は串[hoan]である。日本漢字音は串(カン)である。中国語音
韻史では入声音の[-t]が随唐の時代になって[-n]に変化したものがみられる。咽(エツ)→因(イ
ン)、鉢(ハツ)→本(ホン)、薩(サツ)→産(サン)などである。「串」に串[hoat]という音があったとすれば、日本語の「くし」は上
古音の串[hoat]であるとみることができる。もし、この仮説が成り
立つとすれば、同じような例としては岸(ガン・きし)、賢(ケン・かしこい)、干(カン・ほす)などがある。
古代中国語の「奇」は奇[kiai]である。中国語には活用形がないから、中国語を日
本語にするにあたって「く+し」としたものである。
「葛」は日本語の「くず」にも「かづら」にも使わ
れている。「くづ」はまめ科の多年生植物で根から葛粉がとれる。「かづら」は植物の「つる」のことだが、「くづ」にも「つる」があることから「葛」が使わ
れるようになったものと思われる。
現代の日本語では「くだもの」は「果物」と書く、
しかし、『和名抄』によれば「果」だけで「このみ」をもさし「くだもの」をもいう、ということになる。
日本語の「くち」は中国語の「口」と関係のあるこ
とばであろう。古代中国語の「口」は口[kho]である。「くち」の「ち」は嘴[tziue]であろう。現代北京語では「口」のことを嘴(ziu)と言い、広東語では口(hau)という。また、「くちびる」は「口辺」であろう、「辺」の
古代中国語は辺[phian]であり、韻尾の[-n]は日本語では[-l]に転移することが多い。 言語学者は身体
に関することばはもともと日本にあったもので、中国から輸入したものではない、という立場をとる人が多い。しかし、顎(ガク・あご)、肩(ケン・かた)、
頸(ケイ・くび)、舌(ゼツ・した)、肉(にく)など身体に関することばには中国語語源と思われるものが多く、それぞれ音義ともに対応がみられる。 植民地支配などを通じて西欧のことばを受け入れて
生まれたクレオールにも、現地のことばが西欧語に置き換えられた例は多くみられる。戦後日本に入ってきた英語の語彙のなかにも、それまであった日本語を置
き換えてしまった例は枚挙にいとまがない。
「くつ」はもともと日本にはなかったものと思われ
る。万葉集では「履」「沓」などの漢字があてられている。日本語の「くつ」は中国語の「靴[xuai]+沓[dəp]」が語源であろうと思われる。
古代中国語の「朽」は朽[xiu]である。日本語の「くつ」は「朽+す」の転じたも
のであろう。中国語には活用はないが、日本語の動詞は活用するため、転移することがある。
スウェーデンの言語学者カールグレンは日本語の
「くに」の語源は郡[giuən]で
はないかととしている。朝鮮半島には漢の時代から楽浪郡、帯方郡などがおかれて行政の単位として機能していたことは確かである。しかし、日本語では「郡」
に郡(こほり)があてられており、郡(グン)が「くに」の語源であるとするのは、音の類似にもかかわらず困難ではなかろうか、と思われる。
現代の日本語では「くび」に「首」が用いられてい
るが、日本語の「くび」の語源は中国語の「頸」であろう。古代中国語の「頸」は頸[kieng]である。韻尾の音は日本語の「び」に直接は対応し
ていないが、[-ng]は鼻音であり、同じく鼻音である[-m]に転移することも多い。特に介音[-iu-]が前に来ると規則的に[-m]になるという。日本語の「くび」は音義ともに中国
語の「頸」に近い。
「熊」の古代中国語音は熊[hiuəm]である。日本漢字音は熊(ユウ・くま)であり、外
見上は音と訓は何の関係もないように見える。しかし、日本語の「くま」は古代中国語の熊[hiuəm]の頭音[h-]が脱落したものである。 朝鮮語では「くま」のことを(kom)という。日本語の「くま」の語源は朝鮮語の(kom)であるとする説もあるが、朝鮮語の(kom)も古い時代の中国語からの借用語であろう。
「汲」の古代中国語音は汲[giəp]である。日本語の「くむ」の語源は中国語の「汲」
である。韻尾の[-p]は第二音節で半濁音となり[-m]に転移した。[-p]と[-m]はともに唇音であり、調音の方法が同じである。調
音の方法が同じ音は転移しやすい。
久米歌は久米部が伝承した戦闘歌謡で、神武天皇の
大和での征服の歌ともされている。久米部は久米氏によって率いられ、宮廷の警備にあたった部(べ)である。久米舞というのもあって、久米歌とともに戦勝を
祝って舞ったという。 |
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