第100話 モンゴル語訳の聖書 1.初めもことばがあった。 ことばは神とともにあった。 2.このことばは、初めに神とともにあった。 ○ekhleedは「はじめに」、ekhlelは「はじまり」、ekhelehは「始まる」。 3.万物はことばによって成った。
成ったもので、ことばによらずに成ったものは何一つなかった。 マタイ福音書第6章 9.だから、こう祈りなさい。
『天におられるわたしたちの父よ、
御名(みな)が崇められますように。 ○tegej=そのように、(ingej=こ
のように)、zalbarikh=祈る、
tenger=天、baih=あらしめよ (命令)、bidnii=われわれの、
etseg=父、mini=1人称代名詞所有格・私の、tanii =あな 10.
御国(みくに)が来ますように。
御心(みこころ)が行なわれますように、天におけるように地の上にも。
○ khaanchlakh=治世(khaantai=皇帝=汗)、irekh=来る、bolutugai=bolox「に
なる」の命令 形「でありかし」、küsel=希
望、tani=あなたの(2人称代名詞所有格)、tangert=天、 shig-=のような、gazar=土
地、地上、deer=上に、biyeleh=実
現する、biyelegdekh=実現さ れる、 11.わたしたちに必要な糧を今日与えてください。 ○udur=日、 tutum=毎、(udur
tutum=毎日)、mini=1人称所有格「私の」、talkan=パン、
ene=この、bid-en=我々、ogokh=与える、 12.
わたしたちの負い目を赦してください、
わたしたちも自分に負い目のある人を赦しましたように。 ○bid=我々、gem
zem=罪、öri-n=借金、üüchlakh=赦す、adal=同
様に、bidnii=我々の(1人 称複数代名詞所有格包括形)、mön=[間投詞]然り、その通り、
uuchlaach=赦す、 13.
わたしたちを誘惑に遭わせず、
悪い者から救ってください。 ○ bidnii=我々の(包括形)、 sorilt/sorilgo=試練、hudal huurmag=試練、嘘、buu=禁 止の 助辞、oruulah-=入 れる(oroh=入る)、kharin=し かし、 buzar=穢れた、muu=悪 (muugaas= 悪から[奪格])、 avrah=救う(getül-gex=[他 動詞])
○uchir=事実、状態、
n=3人称代名詞の受身形・古い形、khaanchlakh=治世、khuch=力、
chadal=能力、才能、 aldar=名
声、sur=威光、taniikh=
あなたの 参考文献:小沢重男『現代モンゴル語辞典』大学書林 なお、モンゴル語の解釈についてはダシニャム・ オランマンダハさんの協力を得た。モンゴル語の特徴を日本語、朝鮮語と較べてみるとつぎのようになる。 ○日本語と同じ特徴: ●日本語と異なる特徴 [日本語] [モンゴル語] [朝鮮語]
モンゴル語はrとlの区別がある、1人称代名詞に包括形と除外形の区別があるなど、日本語とは違った特徴はあるものの、安定した語幹に、接尾辞や助詞がついて単語を連 ねて行く膠着的構造など文法構造は朝鮮語、日本語にきわめて近い。モンゴル語はアルタイ系言語とされており、その意味では日本語も朝鮮語もその構造はアル タイ系言語に近いということになる。もし、日本語がアルタイ系言語ではないということになると、そもそも言語の系統とは何か、どこまで共通の特徴をもって いれば同系統といえるのか、という根本的な問題につきあたることになる。 同じインド・ヨーロッパ語族の言語といっても英語とフランス語では語彙も文法構造もかなり違う。ラテン語、ギリシャ語になるとさらに違う。それにもかかわら すインド・ヨーロッパ語族をひとつの語族として成り立たせているのは、インド・ヨーロッパ諸語の歴史がかなり古い時代まで遡ることができ、それらの言語の 分岐してくるようすが歴史的にたどることができるということではなかろうか。それに対してアルタイ系というわれる言語が文字記録に現われるのは、いずれも 遅く、千年以上の歴史をたどれる言語はきわめて少ない。したがって、歴史上それらの諸語がお互いに、いつの時代に、どのように分岐してきたのかが明らかに できないという点にあるように思われる。モンゴル語、朝鮮語、日本語の分岐は、それぞれの言語が文字時代に入る前に行われてしまっていたのであろう。 |
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★第106話 日本語と近いことば・遠いことば |