第112話 古代中国語音の復元 10.古代中国語音の復元 隋唐の時代の中古中国語音は唐詩の韻の研究などによってかなり研究が進み、その音価が正確に復元されている。弥生時代の中国語からの借用語は隋唐の時代より 古い時代の中国語音に依拠しているため、『詩経』などの韻を調べて復元する。日本漢字音は隋唐の時代の中古音に依拠しているが、弥生時代の借用音である弥 生音は古代中国語音に依拠している。漢字の中古音は古代中国語音が規則的に変化したものである。 (1) 古代中国語音の舌頭音(端・透・定)から中古音の知系声母(知・徹・澄)と照系声母(照・穿・神)が派生した。 都「ト」→猪「チョ」、
動「ドウ」→重「チョウ・ジュウ」、猪「チョ」→諸「ショ」、 漢字の訓読みのなかには古代中国語音の痕跡を留めていると思われるものがある。 竹(たけ→チク)、着(つく→チャク)、塚(つか→チョウ)、築(つく→チク)、 (2) 古代中国語の匣母[h-]から中古音の喩母[j]と影母[○]は分化した。また、喩母[j]のなかには定母[d-]と関係のあるものもある。 緩「カン」→爰「エン」、完「カン」→院「イン」、魂「コン」→雲「ウン」、 漢字の訓読みのなかには古代中国語音の痕跡 を留めていると思われるものがある。 熊[hiuəm]→/jiuəng/(く
ま→ユウ)、 雲[hiuən]→/jiuən/(くも→ウン)、 中国の音韻学者、王力は『詩経』の韻を研究して古代中国語の音を復元するとともに、古代中国語の音韻体系を明らかにした。王力はその著書『同源字典』のなかで「声近け れば義近し」という命題を提起している。言語の歴史は文字の歴史より古いのだから、同じ語源の語は音が近いはずだと王力は考えた。王力は復元した古代中国 語の紐表によって「声近し」とは音が印象的に似ているということではなくて、調音の位置が同じであること、あるいは調音の方法が同じであることであると明 確に定義した。 次の表で横に並んでいる音は、調音の場所が同じで転移しやすい。また、縦に並んでいる音は調音の方法が同じで転移しやすい。王力は、この表で横に並んでいるものを「旁紐」と呼び、縦に並んでいるものを 「鄰紐」と呼んでいる。
例えば次のような対語は、調音の位置が同じであり、同源である。 [牙音] 剛[kang]・
強[giang]、
國[kuək]・
域[hiuk]、
花[xoa]・
華[hoa]、 |
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