第111話.訓読み漢字の語源 7.漢字の常用訓と語源 「奥」の古訓には奥「おく、ふかし、うち」などがあった。また、「沖」の古訓には沖「ふかし、はるかに」などがあった。しかし、やがて「奥」は奥「おく」、 「沖」は沖「おき」として常用訓が定着していった。訓にあてられる漢字は必ずしもその語源とは同一ではない。例えば、関(カン・せき)では一般に関「カ ン」が音であり、関「せき」が訓である。しかし、「やまとことば」の「せき」の語源は「塞」である可能性がある。万葉集では「せき」は世伎、勢伎、塞、關 などの文字が使われている。 「過所(くわそ)無しに世伎(せき)飛び越ゆる霍公鳥」(万3754) 「関」の古訓は関「せき、ふさぐ、とざす」などであり、「塞」の古訓は塞(せき、ふさぐ、へだつ)などであった。白川静の『字通』によれば「関」は音がカン(ク ワン)、ワン、訓は「かんのき」、「とじる」、「せき」であるという。また「塞」は音がサイ、ソク、訓は「ふさぐ」、「とりで」だという。王力の『詩経韻 読』によれば「塞」の古代中国語音は塞[sək]であり、日本語の「せき」は古代中国語の「塞」の借用語である蓋然性がある。また、日本語の動詞「ふさぐ」の語源は閉塞「ふさぐ」であろう。奈良時代以降慣用の漢字が変ってしまったために、中国語からの 借用語であることがわからなくなってしまっている日本語の語彙は多い。 8.借用語には複合語もある。
「やまとことば」のなかには単一の漢字ではなく、漢語の熟語と対応していると思われるものもある。 哀憐[əi-lyen] あわれむ、
役戦[jiuek-tjian] いくさ、 鰻魚[miuan-ngia] うなぎ・むなぎ、 古代日本語では語頭に濁音がくることがなく、語中では清音が濁音になることがあるので、中国語の清濁は日本語では語頭では清音に、語中では濁音になる。 9.子音の重複 中国語からの借用語は馬「むま」、梅「むめ」、牧「むまき」のように音節を重ねることがある。また、つぎの例では子音を重ねている。中国語音で語頭が濁音のものは日本語音では子音を重ねることが多いよう である。
括(カツ・くくる)、鑑(カン・かがみ)、掛(ケイ・かける)、掲(ケイ・かかげる)、 これらの「やまとことば」も音義ともに中国語との対応関係があり、弥生時代における中国語からの借用語である。 |
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