第110話 中国語の韻尾音の転移 6.中国語の韻尾は転移することがある。 中国語の韻尾は調音の位置および方法によって次のように分類できる。この表で縦軸の音は調音の位置が同じ音は転移しやすい。また、横軸の音は調音の方法が同じ音は転移しやすい。
王力によると、中国語でも[-n]と[-t]は同源語が多いという。 純[zjiuən] ・
粋[suiət] 、
判[phuan] ・
別[biat] 、
弁[bian] ・
別[biat] 、 [-n]と[-t]は調音の位置が同じである。調音の位置が同じ音は転移しやすい。日本漢字音でも同じ声符をもった漢字に二通りの読み方がある場合がみられる。 珊「サン」・冊「サツ」、吻「フン」・物「ブツ」、因「イン」・咽「エツ」、 中国語には[-l]という韻尾はない。ラ行はタ行、ナ行と調音の位置が同じなので、中国語原音が[-t]または[-l]の場合、日本語ではラ行であらわれることがある。 6-1.中国語韻尾の[-t]、[-n]、[-l]は転移する。 これらの音はいずれも前口蓋音であり、調音の位置が同じである。調音の位置が同じ音は転移しやすい。 (1) 古代中国語音の[-t]は弥生音ではラ行で現れることがある 擦(サツ・する)、 刷(サツ・する)、 奪(ダツ・とる)、
徹(テツ・とおる)、 (2) 古代中国語音の[-n]は弥生音ではラ行で現れることがある 漢・韓(カン・から)、雁(ガン・かり)、巾(キン・きれ)、嫌(ケン・きらう)、 (3) 中国語韻尾の[-n]は弥生音ではタ行で現れることがある 音(オン・おと)、 管(カン・くだ)、琴(キン・こと)、肩(ケン・かた)、 これらのことばはいずれも中国語からの借用語である。訓は弥生時代の借用語であり、音は文字時代になってからの借用語である。 6-2.中国語韻尾の[-p]は弥生音ではマ行、バ行で現れることがある。 日本語では語頭で清音であらわれる音が語中では濁音になることが多い。このため、中国語の韻尾[-p]も日本語ではマ行あるいはバ行で現われることがある。
汲(キュウ・くむ)、鴨(コウ・オウ・かも)、甲(コウ・かめ)、 6-3.中国語韻尾の[-ng] は弥生音ではマ行で現れることがある。 中国語韻尾の[-ng] は日本語にはない音である。[-ng]は調音の位置が[-k]と同じであり古代日本語ではカ行であらわれることが多い。しかし、[-ng]は調音の方法が[-m] と同じであるため、日本語ではマ行であらわれることもある。 咬(コウ・かむ)、公(コウ・きみ)、
醒(セイ・さめる)、霜(ソウ・しも)、 |
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