第130話 やまとことばの成立

    大伴家持の万葉集最後の歌が天平宝字三年の正月を祝った歌であることから、万葉集の成立は759年ころのことであるとされている。しかし、万葉集には5世紀の雄略天皇の歌とされるうたからはじまって約300年にわたる歌が記録されている。万葉集には大陸との交流の長い歴史がきざまれている。607年には法隆寺が建立されるほどまでに中国文化の影響を深く受けている。邪馬台国の女王卑弥呼が魏に使いを送ったのは3世紀のことである。

 弥生文化の時代、古墳文化の時代を通して中国語や朝鮮語が日本語のなかになんの痕跡も残さなかったとすれば、それは不自然なことである。本稿では万葉集に用いられている漢字を読み解くことによって弥生時代、古墳時代を通じて日本語がどのよ うに形成されてきたか、「弥生語」という概念をつかって、その過程の復元を試みた。万葉集はまぎれもなく日本の古代文学ではあるが、その成立は漢字文化圏 の東方への拡大に負うているというべきであろう。

参考文献

  董(Dong)同龢(1944)『上古音韵表稿』中央研究院言語研究所出版、台北
日吉盛幸
(1992)『万葉集歌句漢字総索引 上・下』、桜楓社
Karlgren, Bernhard(1934) “Word Families in Chinese”, Stockholm
Karlgren, Bernhard(1940
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(Li)基文著・藤本幸夫訳(1975)『韓国語の歴史』大修館書店
宮川一郎
(1988)『上海語常用同音字典』光生舘
本居宣長
(1979)『地名字音転用例』勉誠社文庫
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大野晋
(1957)『日本語の起源』(旧版)岩波新書
白川静
(1996)『字通』平凡社
藤堂明保
(1978)『漢和大字典』学習研究社
藤堂明保
(1980)『中国語音韻論 その歴史的研究』光生舘
(Wang)(1980)『詩経韻読』上海古籍出版社、上海
(Wang)(1982)『同源字典』商務印書舘、北京
(Wang)(1985)『漢語語音史』中国社会科学出版社、北京
(Yang)柱東(1965)『増訂・古歌研究』一潮閣、ソウル

著者紹介

小林昭美(こばやし あきよし)元NHK放送文化 研究所所長
1937年長野県生れ。東京教育大学文学部英語学・英米文学科卒。NHKに入り教育・教養番組ディレクター。その間フルブライト留学生としてニューヨーク大学留学。 NHK放送文化研究所所長。(財)NHKインターナショナル理事長。大正大学文学部客員教授。日本言語学会会員。NPO法人「地球ことば村」会員。

著作:『古代日本語の来た道~カナ以前の日本語のかたち~』(2003年、私家版電子印刷)。論文:「やまとことば」のなかの中国語からの借用語」(『大正大学研究紀要』第92号、2007年3月)、「日本語と古代中国語」(吉田金彦編『日本語の語源を学ぶ人のために』2006年、世界思想社、所収)


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